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私の父は、外交官の仕事をしている。
父は基本的に厳しい。
たまには優しい。
でも私は、父と遊んだりどこかに行った記憶が、ほとんど無い。
外交官という忙しい仕事の特性から、日本にすらあまりいない。
父は1年の半分以上、海外を飛び回っていた。
桜が道の両側を挟む、幻想的な街道を、二人の女性が歩いている。
二人の内片方はまだ少し幼さが残っており、女性というより少女といった感じだ。
「――今日はエリの高校入学式なのに…
お父さんったら…ねぇ?」
中年手前の女性が、傍らの娘らしき少女に話かける。
「しょうがないよ
仕事なんだし、お祝いの手紙もくれたし♪」
苦笑しながら少女は返し、
「まったく、優しいね
お母さんがエリだったら、スリーパーホールドね!」
女性は技の仕草をしながら、元気良く言った。
「あははっ♪
お父さん腰弱いんだから、そんな事したら仕事出来なくなっちゃうよぉ?」
「良いわねそれ!?
次帰って来たらやってやろっ♪」
「お母さん…目が結構マジだよ…」
指をパキパキと鳴らしながら言う女性に、少し視線を泳がせながら、少女はブレーキをかけた。
「えっ?あはは
やだなぁ、冗談に決まってんじゃ~ん」
「はははは…」
入学式を開いている、高校の校門の前には沢山の人だかりが出来ていた。
祝福するように咲き誇っている桜と、華やかな飾りつけで、学校全体がとても良いムードになっていた。
「――ねぇエリ、写真撮ろうか?」
先ほどの女性が、緊張している様子の娘に話しかけた。
「…え?い、いいよぉ
恥ずかしいしさ…」
「いーのいーの
若くて可愛いうちは、沢山写真撮っときなさい!」
少女は恥ずかしそうに頬を赤らめて、首を振る。
すると、女性は強引に引き寄せて、近くにいた守衛のアンドロイドにカメラを渡し、女性は少女の肩を抱き寄せる。
「いきますぞ~、1+1は~?」
『にぃーっ!』
カシャッ
桜をバックに撮った写真には、恥ずかしそうに笑った少女と、全開の笑顔をした中年手前の女性が写っていた。
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