エリの過ごした時間

4/7
前へ
/387ページ
次へ
私の父は、外交官の仕事をしている。 父は基本的に厳しい。 たまには優しい。 でも私は、父と遊んだりどこかに行った記憶が、ほとんど無い。 外交官という忙しい仕事の特性から、日本にすらあまりいない。 父は1年の半分以上、海外を飛び回っていた。 桜が道の両側を挟む、幻想的な街道を、二人の女性が歩いている。 二人の内片方はまだ少し幼さが残っており、女性というより少女といった感じだ。 「――今日はエリの高校入学式なのに… お父さんったら…ねぇ?」 中年手前の女性が、傍らの娘らしき少女に話かける。 「しょうがないよ 仕事なんだし、お祝いの手紙もくれたし♪」 苦笑しながら少女は返し、 「まったく、優しいね お母さんがエリだったら、スリーパーホールドね!」 女性は技の仕草をしながら、元気良く言った。 「あははっ♪ お父さん腰弱いんだから、そんな事したら仕事出来なくなっちゃうよぉ?」 「良いわねそれ!? 次帰って来たらやってやろっ♪」 「お母さん…目が結構マジだよ…」 指をパキパキと鳴らしながら言う女性に、少し視線を泳がせながら、少女はブレーキをかけた。 「えっ?あはは やだなぁ、冗談に決まってんじゃ~ん」 「はははは…」 入学式を開いている、高校の校門の前には沢山の人だかりが出来ていた。 祝福するように咲き誇っている桜と、華やかな飾りつけで、学校全体がとても良いムードになっていた。 「――ねぇエリ、写真撮ろうか?」 先ほどの女性が、緊張している様子の娘に話しかけた。 「…え?い、いいよぉ 恥ずかしいしさ…」 「いーのいーの 若くて可愛いうちは、沢山写真撮っときなさい!」 少女は恥ずかしそうに頬を赤らめて、首を振る。 すると、女性は強引に引き寄せて、近くにいた守衛のアンドロイドにカメラを渡し、女性は少女の肩を抱き寄せる。 「いきますぞ~、1+1は~?」 『にぃーっ!』 カシャッ 桜をバックに撮った写真には、恥ずかしそうに笑った少女と、全開の笑顔をした中年手前の女性が写っていた。image=50969345.jpg
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加