エリの過ごした時間

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――あの日から、私の世界は変わった。 私は全く知らなかったのだけど、母は重い病を抱えていた。 病名は、“ネオインフルエンザ”。 聞いた事も無い病気だった。 私には全然そんなそぶりも見せなかったし、父も知らなかったみたいだ。 とても元気そうに見えたのに…。 母は家で急に倒れ、そのまま病院に担ぎこまれた。 確か、高1の夏だった。 とても暑い夜だったのを、今でも覚えている。 ――ガタンッ キッチンの方から、何か大きな物が倒れる音が聞こえてきた。 「………?」 伸ばした長い黒髪を後ろでくくった少女が、音の聴こえた見慣れたキッチンへ向かう。 そこには、いつもと違う、見慣れない光景が広がっていた。 「…っ!?お母さんっ!?」 視界に飛び込んで来たのは、その場に力無くへたり込んだ、一番身近な女性だった。 少女が女性に駆け寄り、肩を揺さぶる。 「…エ…リ、ごめん…ね、お母さん…時間切れみた…い」 女性は苦しげに、途切れ途切れに吐息を漏らす。 「な…何、言って…?」 唇を震わす少女は、困惑するばかりだ。 あまりの事に、顔にはもう血の気が無い。 「エリには…黙ってたけどね……お母…さん、病気なのよ…」 何とかそこまで言うと、女性は体から力が抜け落ち、少女の腕の中に崩れ落ちた。 「…っ!!! お母さん!!?お母さん!! お母さあぁんっ!!!!」 白くて愛想のかけらも無い廊下を、1台の寝台車が疾走して行く。 救急車は空間を超えてやって来る。 連絡を受けると1分程で現れ、寝台車に乗せた患者を、病院の空間連結している部屋へと転送する。 そこからは手術室への全力疾走。 手術室へダイレクトに転送できれば良いのだが、精密機械が満載されている手術室へ、空間に直接作用する機械を設置する訳にはいかないのが、現状だった。 「患者の心拍数はっ!?」 若い医者が蒼いガウンを纏いながら叫ぶ。 「46です!!」 看護士が叫び返し、周りで同じ蒼いガウンを纏ったアンドロイド達が手術具や機器を着いて走る。 「ご家族の方ですね!?」 寝台車を追う少女に、かなり若い医者が話しかけてきた。 「は、はい!あの! お母さんの病気って治るんですよね!?」 医者が思わず立ち止まった。 「…何も…聞かされてないんですか?」 「え?は、はい…」 「………っ」 若い医者は真っ青になり、早足で歩き出す。 「あなたのお母さんはネオインフルエンザなんです…!」 「ネオ…?」image=51959116.jpg
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