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「――オン、…シオン」
「……ん…にゃ?」
自身を呼ぶ声に目を開けるアンドロイド。
眼の焦点が合致すると、無表情な、髪の長い少女がシオンを覗き込んでいた。
「…ねぇ、散歩に行かない…?」
「……ふえ?もう、そんな時間ですか?」
いつものふかふかのソファから、ゆっくりと身を起こすシオン。
シオンは昼食後、昼寝をしていた。
本人は全く気にしていないようだが、ずっとエリの身の周りの世話を全部しているので、最近疲れがたまる。
だからこうして、空いた時間に昼寝をしているようだ。
「…んん~っ!
よしっ、じゃあ行きましょうか♪」
大きく伸びをして、立ち上がるシオン。
ニコッと微笑むシオンは、楽しそうに前髪を揺らした。
エリとシオンは今、居住区を少し出た巨大な公園を歩いていた。
公園内は綺麗に整備されていて、木々が楽しげに風にそよいでいる。
池の水面には、小型の手漕ぎボートがのんびりと浮かんでいた。
「お天気が良くて、気持ち良いですね~♪」
「…そうね」
春真っ只中という訳で、天気は快晴、気温は18℃。
かなり過ごしやすい日だ。
明るい天気と同じ表情をしたシオンは、明るい天気とは正反対な表情のエリと、歩調を合わせて歩く。
その肩から、下げられて揺れ踊る水筒。
二人は水筒にお茶を入れて、家を出て来た。
疲れた時に飲めるように、とシオンの配慮だ。
「あっ、エリさんエリさん!
猫がいますよっ」
「…ほんとだ」
不意にシオンが指した方に、茶色い猫がいた。
シオンは猫に歩み寄り、猫の真ん前にしゃがんだ。
すると驚いたのか、猫は逃げ出してしまった。
「あぁ…っ猫さん…」
「…しょうがないよ
…相手は猫なんだから」
「はい…」
猫に逃げられたのがそれほどショックだったのか、シオンは力なくため息をついた。
しばらく歩いて、公園内の噴水前で、エリとシオンは座って休憩していた。
「たくさん歩きましたね♪」
元気を取り戻したシオンは、水筒のフタを開けながら話しかけた。
「…うん」
エリも小さな水筒からお茶をコップに注いでいる。
因みにシオンの水筒の中身は、お茶ではなく水だ。
冷却水が入っている。
アンドロイドは、口から冷却水を『飲む』。
その方が人間に近く思えるからだ。
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