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柔らかいそよ風の吹く公園。
二人の時間は、まったりゆったりと流れる。
エリの白い頬を風が優しく撫でて、肩を抜けて、背中に流した長い髪の毛を、すっ…と持ち上げて行った。
不意に、遠くを見ていたエリが、小さな口を開いた。
「………シオン、最近…疲れてない…?」
「えっ?そうですか~?」
自覚が無いのか、不思議そうに聞き返すシオン。
エリはシオンに視線を落として、言葉を繋ぐ。
「……気がついたら、最近昼寝してるし…
…休みたい時は……休んでも良いんだよ…」
エリの意外な優しい言葉に、シオンは嬉しそうに笑う。
「大丈夫ですよっ♪心配はいりません♪」
「……そう…本当に?」
「もぉ~、大丈夫ですってば♪」
シオンは口元を緩めて、とても嬉しそうに苦笑した。
「…あの、エリさん
エリさんの将来の夢って、なんですか?」
歩きながら、シオンが尋ねた。
「…将来の、夢…?」
シオンはうなずき、エリの顔をじっと見る。
「……なんだろう
…………わからない…
…シオンは、何かになりたいの」
ぼんやりとしばらく考えた後、エリは静かに聞き返した。
すると、シオンはにっこりと顔をほころばせて、希望が噴き出す声で語り出す。
「えへへ…ボクは~エリさんみたいに、ロストハートになってしまった人達の…心を取り戻すお手伝いをしたいです!」
「…大きな、夢だね」
この瞬間エリには、シオンがとても輝いて見えた。
この照れ笑う少年は、アンドロイドなのに。
人間のハズの自分は何をしているんだろう。
何がしたいんだろう…。
何をすれば、何かしたいと思えるんだろう。
エリは、そんな気持ちが泡のように浮かんで、そして沈んだ。
公園の一角に、工事の音が響いている。
音の源流は、公園に建築中の木造の休憩所、ログハウスだ。
建築現場の頭領らしい男性が、頭上に向けて叫ぶ。
「おぉい!休憩にすんぞ!!」
『へーい!』
テキパキと働いていた大工達が返事をして、足場から降りてくる。
その中の特に背の高い、オレンジ色の外装をしたアンドロイドが、ふと公園の遊歩道を見る。
「…あん?
ありゃ…あの時の…シオンか?」
ダンクは頭に巻いていたタオルを取りながらつぶやいた。
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