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今日も快晴。
春過ぎなのだが、まだ桜が咲いている。
そして、まるで汗をかくように花びらを風に流していた。
そんな中を、一人の少年が歩いていた。
サラサラの緑っぽい髪の毛。
垂れ気味の優しい目。
男の子よりも女の子に近い顔。
そして何よりも、その綺麗な透き通るような声。
少年は鼻歌を歌いながら、いつものように買い物帰りの散歩を満喫していた。
公園の中を通り、小さな林を抜け、目的の地にたどり着く。
しかし、いつも人気の無いこの場所に、一つだけ小さい人影が立っていた。
少年はゆっくりと近づいて行く。
人影は、少年と同じくらいの年の少女。
少女は気づいていないのか、鼻歌を歌いながら楽しそうにくるくると回っている。
すると、突然風が吹き、少女のかぶっていた麦わら帽子が飛ばされた。
「…あっ!?」
「わわっ…よっ!」
少年は慌てて、地を蹴って帽子を掴み取る。
「………あ…」
少年と少女の間に、不思議な沈黙が降りる。
2人はしばらく見つめ合い、少年は思い出したように少女に駆け寄って、帽子を渡した。
「はいっ!飛ばされないで、良かったね♪」
少年がにこやかにそう言うと、
「うん!ありがとうっ!」
少女も表情を緩めて、元気良く返した。
二人は少しの間、海の方を眺めていた。
少女が口を開き、
「…君は、よくここに来るの?」
「うん、ちょっと前からね
買い物帰りとかに寄るんだ
君も、よく来るの?」
少年は同じ質問をし、少女も返事をする。
「あたしは、もうずっと昔からここに来てるよ
良いよね、この場所?」
「うん!
きっとどんな辛い事や嫌な事があっても、どうでも良くなっちゃうよねっ♪」
「あははっ♪そうだね!
………そうだと、良いな…」
「え…?」
少年は少女がふと、寂しげな表情をしたように思えた。
「…ぅおっと!!
もう行かなきゃ!」
「行っちゃうの?」
急に、何かを思い出したのか、少女は林へきびすを返す。
「うん、行かないと!…そうだ!
名前、教えてくれない!?
あたし、ナツミ!」
輝くような笑顔で名を尋ねる少女。
それに負けない笑顔で返す少年。
「ボクはシオン!
さよなら、ナツミちゃん!」
「バイバイ!帽子、ありがとう!
また会えるといいねーっ!」
「うん!またー!」
手を振り、ナツミは走り去ってしまった。
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