見える姿、届かない声

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『そんなに走って来なくても良かったのに!』 「早く逢いたかったから……」 『そう、じゃあ行きましょうか?』  そう言って聖夜が車に向かい入れたのは樹莉ではないお客だった。  そして数日後、ここは白に囲まれた聖夜の部屋。 ――あれ?樹莉ちゃん風邪かな?  煎れたてのコーヒーに砂糖を2つ落としてHPをクリック。 ――特に何の情報もないな 舞台の予定を確認すると、ヒロインの名前が彼女じゃなく、そう思って携帯を手に取り電話を鳴らす。 『アチッ……ちー』  一口啜ったコーヒーが熱くて下を軽く出しながらコール音を聞くが、留守電に切り替わり電話を切って樹莉ちゃんにメールを打った。 ――やっぱ風邪かな?のど飴あったっけ……  テーブルに置かれたガラスの大きな器、そこには沢山の飴が入っていてメールを打ちながら飴を探した。  そして夜、出勤し風邪を引いたと言うお客さんにのど飴を差し出した。樹莉ちゃんを心配して持っていた筈の物を。
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