親友の企て。

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  「羽柴、そのからあげと俺の玉子焼き交換な?」     後ろを振り返った抜け目の無い親友は   開けたばかりの弁当箱から 有無を言わさず、からあげを一個 かすめ取った。   彼の名は沢村壱瑠(さわむらいつる)。俺が転校して来たての時、最初に声を掛けてくれたのは沢村だった。   感情表現が真っ直ぐで 友達思いな、身長は低いが心の大きな奴だ。     「沢村…お前肉ばっかり食ってると肥るぞ?」     「だって… 羽柴のからあげ すげぇ、美味いんだもん。俺お前のからあげ好きー。」     幸せそうに微笑んで… 沢村は、俺の弁当箱に玉子焼きを放り込んだ。   沢村の彼女の満(みつる)ちゃんが作った玉子焼きは、砂糖がたっぷり入っていて… 甘い物が苦手な沢村は、いつも俺に押し付けてくる。   …俺個人としては… 沢村のために 毎朝お弁当を作っている、沢村の彼女に悪気がするのだが…   この爽やかな笑顔を見てしまうと、 何も言えなくなる。     「羽柴さぁ~そう言えば もう、聞いた?」   沢村は、どさくさに紛れて 俺の弁当箱から、からあげをもう一つ自分の口に放り込むと…話し始めた。     「駅前のケーキ屋さん、バイト募集するんだって…」     「へ~。」     「うわぁ…反応薄いなぁ…。」     沢村は大袈裟にがっくりと頭を垂れると、 俺に掴みかかり、体を揺さぶり始めた。     「あの…女の子が可愛い事で有名な駅前のケーキ屋が募集してんだぞ? お前それでも男か?俺は面接行く。全力で行く!!!」     そう力説する沢村に… 俺は、ため息をついた。     「でも…沢村。満ちゃんが そんな所にバイトに行く事をよく許したな?」     「まぁ…渋ヶだけどね。お前も一緒だって言って、やっとOKもらえたんだよ。」     「…はぁ!?」     「あと…面接は今週の日曜だから、空けとけよ!!」     「はぁ!?」     バイトの話しが出てから 五分も経っていないにしては、急展開過ぎる。   直ぐに『冗談だよ。』と言って笑ってくれる事も 期待したりしたが… そんな様子もない。   (そう言えば…こいつって、こうゆう奴だった…)     「…面接…どうしても行かなきゃ駄目か?」     「うん。お前なら断ってくると思って、もうお前の履歴書送っちゃったもん。俺。」     (コ…コイツ…(怒))  こうして 俺の変わり映えのない日常は…   親友の手により 非日常へと歩き始めたのだった…
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