5人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「羽柴、そのからあげと俺の玉子焼き交換な?」
後ろを振り返った抜け目の無い親友は
開けたばかりの弁当箱から
有無を言わさず、からあげを一個
かすめ取った。
彼の名は沢村壱瑠(さわむらいつる)。俺が転校して来たての時、最初に声を掛けてくれたのは沢村だった。
感情表現が真っ直ぐで
友達思いな、身長は低いが心の大きな奴だ。
「沢村…お前肉ばっかり食ってると肥るぞ?」
「だって…
羽柴のからあげ
すげぇ、美味いんだもん。俺お前のからあげ好きー。」
幸せそうに微笑んで…
沢村は、俺の弁当箱に玉子焼きを放り込んだ。
沢村の彼女の満(みつる)ちゃんが作った玉子焼きは、砂糖がたっぷり入っていて…
甘い物が苦手な沢村は、いつも俺に押し付けてくる。
…俺個人としては…
沢村のために
毎朝お弁当を作っている、沢村の彼女に悪気がするのだが…
この爽やかな笑顔を見てしまうと、
何も言えなくなる。
「羽柴さぁ~そう言えば
もう、聞いた?」
沢村は、どさくさに紛れて
俺の弁当箱から、からあげをもう一つ自分の口に放り込むと…話し始めた。
「駅前のケーキ屋さん、バイト募集するんだって…」
「へ~。」
「うわぁ…反応薄いなぁ…。」
沢村は大袈裟にがっくりと頭を垂れると、
俺に掴みかかり、体を揺さぶり始めた。
「あの…女の子が可愛い事で有名な駅前のケーキ屋が募集してんだぞ?
お前それでも男か?俺は面接行く。全力で行く!!!」
そう力説する沢村に…
俺は、ため息をついた。
「でも…沢村。満ちゃんが
そんな所にバイトに行く事をよく許したな?」
「まぁ…渋ヶだけどね。お前も一緒だって言って、やっとOKもらえたんだよ。」
「…はぁ!?」
「あと…面接は今週の日曜だから、空けとけよ!!」
「はぁ!?」
バイトの話しが出てから
五分も経っていないにしては、急展開過ぎる。
直ぐに『冗談だよ。』と言って笑ってくれる事も
期待したりしたが…
そんな様子もない。
(そう言えば…こいつって、こうゆう奴だった…)
「…面接…どうしても行かなきゃ駄目か?」
「うん。お前なら断ってくると思って、もうお前の履歴書送っちゃったもん。俺。」
(コ…コイツ…(怒))
こうして
俺の変わり映えのない日常は…
親友の手により
非日常へと歩き始めたのだった…
最初のコメントを投稿しよう!