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ピーンポーン。
機械的な音が家中に響き渡った。俺は緊張しながらも走る。どんなものなんだ、と胸を踊らせながら。
―…恐怖なんて好奇心に簡単に掻き消されてしまう。
部屋からでると寒さが直に肌まで伝わってきて、鳥肌がたつのを感じたが、俺は足早に階段を降りる。
すると妹が配達員に接待をしているのが見えた。
「あ、お兄ちゃん。これお兄ちゃんの?」
妹がこちらに気付き、くるりと振り返った。
後ろには配達者が居た。
顔は深く黒いキャップ帽をかぶっており、見えない。
その上全身黒い作業着を着ていてはっきり言って不気味だ。
分かることといえば男ということだけだ。
玄関の普通より黄色い電球が更に男の不気味さを引き立ていた。
俺は思わず眉をひそめる。それに気付いてか、男はニヤリと笑い、頭を少し下げた。
「お兄ちゃん?大丈夫?」
いつの間にか妹が下から覗き込んでいた。どうしたの?と妹が上目遣いで聞いてくる。
「ごめんごめん、これ俺のだからもう良い。あ、ここ寒いだろ?早くリビング入れよ。」
俺はあたかも妹を心配しているように妹の背中を押した。
早く、早く行ってくれ。
妹は背中を押され、不思議そうにリビングへと入っていった。それを確認し、直ぐにリビングの扉を閉める。
「…じゃあここにサインをお願いします」
男がスッと領収書を差し出してきて俺は無言で近付き中村、とサインした。
「有り難うございました。では、お楽しみ下さい」
そう言って、男は音を立てずに去っていった。
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