6/11
前へ
/65ページ
次へ
ピーンポーン。 機械的な音が家中に響き渡った。俺は緊張しながらも走る。どんなものなんだ、と胸を踊らせながら。 ―…恐怖なんて好奇心に簡単に掻き消されてしまう。 部屋からでると寒さが直に肌まで伝わってきて、鳥肌がたつのを感じたが、俺は足早に階段を降りる。 すると妹が配達員に接待をしているのが見えた。 「あ、お兄ちゃん。これお兄ちゃんの?」 妹がこちらに気付き、くるりと振り返った。 後ろには配達者が居た。 顔は深く黒いキャップ帽をかぶっており、見えない。 その上全身黒い作業着を着ていてはっきり言って不気味だ。 分かることといえば男ということだけだ。 玄関の普通より黄色い電球が更に男の不気味さを引き立ていた。 俺は思わず眉をひそめる。それに気付いてか、男はニヤリと笑い、頭を少し下げた。 「お兄ちゃん?大丈夫?」 いつの間にか妹が下から覗き込んでいた。どうしたの?と妹が上目遣いで聞いてくる。 「ごめんごめん、これ俺のだからもう良い。あ、ここ寒いだろ?早くリビング入れよ。」 俺はあたかも妹を心配しているように妹の背中を押した。 早く、早く行ってくれ。 妹は背中を押され、不思議そうにリビングへと入っていった。それを確認し、直ぐにリビングの扉を閉める。 「…じゃあここにサインをお願いします」 男がスッと領収書を差し出してきて俺は無言で近付き中村、とサインした。 「有り難うございました。では、お楽しみ下さい」 そう言って、男は音を立てずに去っていった。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加