2/11
前へ
/65ページ
次へ
「…ただいま」 家の鍵を開け、ガチャリと音を立てて扉を開ける。玄関なので、さほど暖かくない。 自転車の鍵をポケットにねじ込み、学校指定の靴を脱いで靴箱に入れた。 靴箱の扉の表面には鏡がついており、その時に見えた自分の耳と頬が寒さのおかげでほんのり紅く染まっているのが見えた。 玄関の右側にはリビングへ繋がっている扉があり、正面には階段がある。 フローリングの床を足音を立てずに歩き、リビングへと繋がる横開きの襖のような扉を開ける。 リビングへ入ると暖かいほわんとした空気が身体を包み込み、俺の冷えきっている身体を暖めてくれた。 「あ、おかえり。お兄ちゃん」 6つ下の妹がソファーにちょこんと座ってゲームをしている。 学校から帰ってから直ぐにしていたのか、赤いランドセルは妹の座っている、直ぐ近くの床に靴下と一緒にだらしなく置かれていた。 「お前、ちゃんとランドセルとか片付けとけよ。じゃないと晩飯抜きにするからな」 我ながら母みたいな台詞だと思った。 自分のスクールバッグを所定の位置に置いて、妹に忠告する。 俺の家は共働きで、親が2人とも帰ってこない時がよくある。その時は俺が親代わりなので、仕方がない。それに、親が居ないと結構楽しかったりするのだ。 妹は上の方で2つ結びした、俺より茶色っぽい腰まである髪を揺らし、頬を膨らましたうえに唇を尖らせて抗議の目を向けた。 「仕方ないじゃん、早くゲームしたかったんだもん!!」 「言い訳は聞かない。早くやれ」 ぴしゃりと言い放つと、妹は一時停止ボタンを押して立ち上がる。 ぼん、と無造作に置かれたコントローラがソファーの上で数回跳ねた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加