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竜児
「……っ……」
竜児(N)
「教室のドアを開けるのと同時、絶句して立ち尽くす。椅子が二つ、いや三つ、宙を舞っていた。一体なにが起きている―――今、確かに制服を着た女が一人、俺の姿を見るや否やロッカーの陰に頭から飛び込んで姿を隠したのだ。その瞬間も見えていたし、もっと言うなら、今も現在進行形でそいつの姿は見えていた。教室の壁には姿見の鏡が設えてあって、そこに後ろ姿と後頭部が全部まるっと映っているのだ。」
―――ゴクン、と竜児が唾を飲む
竜児(N)
「知らない振りを通そう。なにしろそのコンパクトサイズの不審なドジには……手乗りタイガー、という名前がついている。」
大河
「あ~っ……」
竜児(N)
「間の抜けている割に切迫感満タンのかすかな悲鳴が教室に響いた。そして、ゴロンと転がり出てきたものが、竜児の努力をすべて無にする。コンパクトになっていた逢坂大河は自分で勝手にバランスを崩し、そのまま前転でロッカーの陰から転がり出て来たのだ。運の悪いことに、ちょうど俺の目の前あたりに。」
大河
「……」
竜児
「……」
竜児(N)
「見上げる逢坂と、見下ろす俺。もはや知らないふりをできる距離関係ではなく、二人の視線は無言のままで交錯する。そのまま数秒、」
竜児
「だ、……大丈夫か?」
竜児(N)
「俺の喉が、やっとこそそんな言葉を搾り出した。そして迷いながらも、もそもそと起き上がろうとしている逢坂に手を差し伸べようとする。」
大河
「―――いらん」
(睨みつけるように)
竜児
「……か、鞄、鞄……」
竜児(N)
「鞄は自分の机ではなく、帰り際に話をしたまま北村の机の上に置いておいた。あれさえ取れればあとは教室から離脱するのみ。はやる気持ちを抑えて手を伸ばし、あと二十センチ、あと十センチ―――」
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