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「ほら、早く塵になって地面の砂と同化なさいな。それとも火葬した海に撒きながら落涙するほうがお好み?」
「一応、泣いてはくれるんだな……」
「あら、笑いすぎて涙が出ることだってあるでしょう?」
口元に手を当てながらくすくすと笑う玲菜を見て、いっそ怒鳴り散らしてくれれば良いのに、と釘也は本気で思う。
こうなると試験で疲れているとか気分の良くない呼び出しを受けて虫の居所が悪いんだ、とか言い訳することすら釘也には許されない。
言葉がどれだけ殺意に満ちていても、玲菜は笑顔なのだから。
この状況で釘也が言い訳を口にすれば、その時点で争いの起点は釘也になってしまう。
そうなれば玲菜は『笑顔で談笑していたのに突如言いがかりをつけられた側』として、誰に遠慮することも無く、釘也を叩き伏せられる大義名分を手にするのだ。
面倒ごとを避けに避けた結果待っていたのは笑みを浮かべた阿修羅で、せめてその美しい顔で心のケアだけでもしようとすれば「そんなに見つめないでくださいまし」と照れとは真逆の意味合いが込められた言葉を頂戴する。
選択肢が全て同じ分岐点に立たされて、釘也は諦めたように天を仰ぐ。
僕の夏休み、どうなってしまうのでしょうか?
「さてー、上之宮も釘也を苛めるのはそのくらいにして、そろそろ始めようぜー?」
空気を読んでか読まずしてか、太一の一言で二人の間で勃発した冷戦は一先ず終結し、ふん、とそっぽを向いた玲菜は釘也を無視して輪の中に入っていった。
二人になった時のことを考えると気が重いが、とりあえず最悪を脱したことを喜ぶことにした釘也は、今から何をするか理解した時から浮かんでいた疑問を口にする。
「わざわざ思念しなくても、皆で海行けば良くない?」
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