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「この時期の海水浴場なんて、芋洗いと大差ありませんわっ」
そんなのゴメンよ、とばかりに声を荒げる玲奈に、学校を経営する一族はプライベートビーチくらい持ってるんじゃないのか? という言葉をすんでのところで飲み込む。
これ以上玲菜の機嫌を損ねる失態は避けねばならなかったからだ。
当然、そのあとに続くはずだった「俺試験のあとでまだ調子悪いんだけど」という泣き言も封殺され、失った拒否権は再び与えられることなく釘也の参加を強制させる。
「宮沢さんと釘也は海を、私たち三人でビーチを構築いたしますわ」
指揮をとりつつ、持っていた鞄から小さなボールを取り出した玲菜は無造作にそれを放り投げた。
クァネ粒子を圧縮させたその器は、地面に触れると軽快な音と共に弾け、キラキラとした黄金の粒がグラウンドに舞う。
試験及び年に一度の発表祭でしか見ることの無い光景だが、釘也は何度見ても圧倒されてしまう。
重力に逆らう黄金色の雪は、それだけで奇跡を思わせる。
現実に存在する物質でありながら、クァネ粒子を現代の魔法と称する者がいることに異を唱えられないくらいに、その姿は神秘的で、美しさに満ちていた。
釘也、太一、玲菜、ひかる、愛流。
お互いに手を繋いで輪を形成した後、釘也はそっと目を閉じる。
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