プロローグ

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思念で一番大切なことは、集中力と知識。 入学して真っ先にそれを叩き込まれ、一年半経った今でも記憶力の試験は定期的に行われている。 釘也が学校に呼び出しを受けたのも、その試験の為だった。 真っ暗な視界の中で、釘也は世界を創りあげる。 その存在を誇示する太陽、寄せては返す波の音、焼けるような砂の暑さ、優しく頬を撫でては去っていく風、その風が微かに運んでくる磯の匂い。 頭の中で描いたそれを、今度は必要最小限のイメージに縮小していく。 一人であれば今のイメージで充分だが、今回は太一という裏方がいる。 穏やかな海と嵐により激変した海を同じ姿で想像する者がいないように、思い思いに舞台を創りあげては協調性に欠けた歪なものにしかならず、芸術性は破綻してしまう。 それよりも一つの舞台を土台から練り上げることが出来れば、その上で舞う演者をより輝かせることができるのだ。 波、砂浜、磯の匂い。 最終的にそこまでイメージを簡略化した釘也にできることはもう無い。 あとは演者たる彼女らがこの舞台に彩を加えるだけだからだ。 ビーチバレーのコートがあっても良いし、バナナボートなんてのも古風で面白いかもしれない。海だからこそウォータースライダーを創ってしまう面白さもある。 人の思念は常識という枠に囚われることなく、自由にその羽を広げ飛翔する。それが大衆に受け入れられ、感嘆と驚愕と称賛を一部のスキも無く兼ね備えたものを、人は『芸術』と呼ぶのだ。 だからこそ、思念というものは難しく、奥が深い。 それこそ何気ない一言で乱れ、崩れ落ちてしまう程に。
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