プロローグ

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「何これ……」 「何なんだろうねえ……」 上之宮学園の異界と化したグラウンドに立ち尽くす中、最初に口を開いたのはひかるだったが、釘也はそれに投げやりな返事をすることしかできない。 釘也達の目の前に広がるのは、かもめが陽気に歌う水平線でも、塩気を含んだ風がそよぐ砂浜でもない。 捻じれに捻じれた思念はそれでも海から水を残し、満場一致で脳裏に叩き込まれた砂の城と天守閣は見事に具現化されている。 天守閣から鯨の潮吹きのように水が噴出している異常としか表現できない砂の城がそこにはあった。 全員水着の体は成しているものの、この状況では思念成功というよりシュールでしかなく、むしろ起こって欲しくない部類の奇跡である。 「天見ぃ!」 「天見さん!」 「ふえ? ふえええええ!?」 呆れ返る釘也に対し、怒りを隠そうともしない玲菜と太一、不満こそあるものの一人眉を八の字にするひかる。 自分が声を出してしまったことすら分からず、なぜか怒られていることにパニックになる愛流。 本来眼福であるクラスメイトの水着姿も、この状況では充分に愛でることもできない。 これを阿鼻叫喚といわず何と言おう。 手にしたものは試験から更に酷使された頭。 失ったものはパートナーの好感度と友人への信頼感。 「あ、虹」 釘也はもう一度思う。 思わざるを得ない。 僕の夏休み、どうなってしまうのでしょうか?
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