プロローグ

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この夏真っ盛りの暑さをどうしてくれよう。 日本の風物詩たる四季の一つを全面的に否定しつつ、七海釘也は一発でそれと見て取れるため息を吐いた。 世間ではもう夏休み。釘也の学校も例に漏れず、終業式など三日前に終了し、今日くらいは誰にも束縛されずに惰眠を貪ってやろう、と考えていた矢先に担任から呼び出しを受け、定期試験が予定より遅れているから夏休みに出席して来いと微笑まれる。 ふざけんなやってられっかチクショーが、と本能のままに叫べたならば、他の生徒がどれだけ欲しがっても決して手に入らない恍惚の瞬間を得るだろう。 しかしそれは同時に学生である以上決して失ってはならない在学認可という青春時代の第一級特許権に別れを告げる羽目になる。 こうして、釘也は貴重な夏休みを一週間学校に献上することになり現在に至った。 実はオーブンの中ですよ、と言われても疑わない程に熱されたアスファルトを一瞥し、釘也は出てきたばかりの校舎へ踵を返す。現在の時刻は正午。今でこそ猛威を振るっている太陽だって、あと数時間もすれば山間に沈んでいかざるを得ない。 どうせ帰るならそれからでも良いだろう。 空調設備の整った校舎内の中庭で寝転ぶと、釘也は試験で酷使した頭を休めるように目を瞑る。 室内でありながら土の匂いを嗅ぐ事ができ、葉の擦れあう音を肌に感じられる中庭は学校の人気スポットだ。普段は生徒でごったがえしているのだが、幸か不幸か夏休みに学校に来ている生徒なんて余程熱心か落ちこぼれかの二種類しかいない。
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