プロローグ

3/15
前へ
/15ページ
次へ
どうせ独り占めできるのだから、このまま小一時間ほど寝入ってしまおうと考えた矢先、現在進行形で癒されていた釘也の心を土足で踏み荒らすように聞き覚えのある声が近づいてくる。 「釘也さーん、記憶力だけが取り柄の七海釘也さーん。お友達がグラウンドでお待ちです。肩で息をするくらい全力でおこしください。繰り返します、彼女にするならナイスバディなお姉様よりスレンダーな女の子が良いと言い張って譲らない、七海釘也さん――」 「って、ちょっと待てオイ!!」 いくら人気が無いとはいえ、生徒がいないわけではない校舎内で不名誉極まりない呼び出しを続けられてはかなわない。 釘也はすぐさま身体を起こすと、廊下側からやってくる友人を睨み付けた。 暑さに耐えかねてか前のボタンをだらしなく開けた白いカッターに身を包み、黒のズボンも膝下まで捲り上げられている。 赤茶色に染まった髪を揺らしながら、友人は釘也に気付いたのか笑みを浮かべた表情を崩さぬまま釘也の方へと歩み寄っていく。 視線が合ったことを伝達と認識したのか、友人であったそれは足元から粒子状になって四散していき、釘也から数歩離れたところで完全にその姿を消滅させた。 そんな『異常』を目の当たりにしても、釘也表情に変化は無い。 理由は簡単、そんな『非日常』こそが釘也の『日常』なだけだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加