プロローグ

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子犬のようにぽてぽてと歩み寄ってくるひかるは、相変わらず自分が何をしたわけでもないのに眉が八の字にして不安そうな笑みを浮かべている。 恐らくご立腹な二人と試験を終えたばかりの釘也の間で勝手に板ばさみになっているだけなのだろうが、そのまま困らせているのも可哀想なので軽く微笑むと、八の字眉毛を崩して朗らかに笑った。 短く切りそろえられた髪と、旧世紀の水兵をあしらった涼しげな上半身に、紺のハーフパンツを合わせた活動的な格好は意外にもひかるによく似合っている。 一見すると活発に見えるのだが、自己責任が過剰なのかポジティブという言葉を知らないのか、常に不安そうにしている表情が努力の全てを水の泡にして“大人しい女の子”という立場に落ち着かせている。 「この暑い中よく集まるな、曽根川達も」 「試験が終わったばかりなのに呼び出しちゃってゴメンね。でも七海君が来てくれて良かったな。“裏方”が宮沢君だけじゃ心細くって」 「曽根川ひっでーんだ。俺は俺なりに“どこでなら力を抜いても大丈夫か”っつーのを真剣に考えてるってのによー」 「あう、ごめん……そういう意味じゃなくって……。って、演技中は力を抜いたら駄目だよ宮沢君……」 ひかるが太一を“裏方”と称したのは、太一が演者として適正が低いという意味ではない。 上之宮学園では、入学して一ヶ月でパートナーを作ることが義務付けられているのだ。
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