プロローグ

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当初、クァネ粒子が見せる映像はバラエティに富んでいるものの、構成が単調であったり、所々で画が乱れるという欠陥があった。 誰もが感動し、頬を濡らしてしまう一本の名作を鑑賞した際、物語の序盤で脇役が呟いた何気ない一言を覚えている者は少ない。 そういった『物語を構成する上での細かい演出』を主役たる“演者”だけでは完全に思念することが出来ず、結果として舞台に遊び心が減り、無理にそれを演出しようとすればイメージが乱れ、画が荒れてしまう。 その問題を改善するために作られたのが“演者”と“裏方”の多重思念とによる舞台構成、というわけだ。 大手の劇団になると二桁にも届く数で舞台を創ることがあるというが、粒子を扱い始めて間もない釘也達ひよっ子にそんな芸当が出来るわけも無く、卒業までに二人での舞台が滞りなく終わらせられれば上出来、と言われている。 “演者”を務める曽根川と“裏方”を務める太一のコンビは、組んだ当初こそ性格の違いもあり難儀していたようだが、最近では巧く機能しているようだった。 根を詰めすぎる曽根川には太一の楽観的な部分が、太一の飽きっぽい性格には曽根川の緊張しいな部分が、それぞれ欠けているものを補い合っているのだろう、と釘也は思っている。 ちなみに釘也のパートナーは、曽根川の後ろから普段の彼女を知る人にはお見せできない表情で釘也を睨み続けていた。 早いうちにフォローすれば精神的な意味でも肉体的な意味でも傷は浅くて済むのだが、試験終わりで憔悴しきった身体は現在進行形で癒しを求めており、とてもじゃないが釘也をそんな気にはさせなかった。 その視線から逃れるように辺りを見回した釘也は、本来いるべき人間が一人いないことに気付く。
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