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「俺と付き合ってくれ!」
夕焼けが空を覆い尽くし、オレンジ色の光が彼女の顔の陰影を映し出していた。
艶やかな長髪は一本一本が意志を持っているかのように風に踊っている。
整った顔のパーツは一つだけをとっても完成されており、それが集まる事によりお互いの魅力を何十倍にもしていた。
彼女は俺の告白に驚く訳でもなく、ただ平然と澄んだ瞳をこちらへと向けている。
まるで、その光景を何度となく見てきたとでも言うかのように。
「……」
これは俺にとって人生で初めての告白。
早鐘のように鼓動する心臓は張り裂けそうな程に息苦しく、彼女にも聞こえてしまうのではないかと余計な心配までしていた。
告白の答えなんて分かってる。
今までに何人もの男たちが告白して、そのどれもがにべもなく一蹴されてきたんだ。
自分もそんな中の一人なんだろうな……。
「いいよ」
そして、彼女の口がゆっくりと動いて、そう紡いだ。
「そうだよな……。駄目なのは分かってたからいいんだ。伝えたかっただけだからさ」
正直、笑顔で言えている自信なんかない。
分かってても振られるっていうのは、堪えるものなのだ。
「だからいいって言ってるでしょ?」
彼女は何度も言わせるなといった表情をしていた。
「……え?」
俺はその言葉を何度も頭の中で反芻(はんすう)させたまま、思わず訊き返してしまっていた。
「付き合ってもいいよ」
彼女の浮かべる笑顔は今までに見たどの表情よりも穏やかで繊細だった。
それを見た瞬間、彼女の答えがNOではなかった事を悟る。
俺は内から込み上げる喜びに震え、これは夢なんじゃないかとまで考えていた。
まさに幸せの絶頂。
この後の一言が無ければ――な。
「ただし、条件があるんだよね」
「……条件?」
訊き返すと、彼女は小さく頷く。
そして、
「私とゲームをするの」
人差し指を頬に当てて言った。
少しずつ彼女の顔は優しげなものから、小悪魔のような微笑みへと変わっていく。
「名付けて誘惑ゲーム。おもしろそうでしょ?」
おもしろそう……だと?
嫌な予感しかしないんだが……。
彼女の表情からは、俺を使ってどう遊ぼうと考えている風にしか見えない。
今になって思いだしてしまった。
彼女は美しい顔を持つ鬼だと誰かが言っていた事を……。
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