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「ショックだった?」
口元にはうっすらと笑みを零し、俺の反応を伺っている事は間違いない。
ここで弱みを見せたら、ここから先の自分の立場が危うくなる筈だった。
うん、柔らかい。
冷静になれ。
自分にそう言い聞かせ、敢えて何も感じていないような振りをした。
「別に平気だ」
……そんな顔で見るな。
隠してるつもりか知らないけどな、口元が震えてるのが見えるんだよ!
笑いたいなら笑え! などと言える筈もなく、俺は悔しさに歯噛みしていた。
うん、柔らかい。
「家こっちの方なの?」
怜奈は先程の話題がもう終わりだとばかりに、俺から離れると片足でくるくると回っていた。
両手を平行に保ち、まるでフィギュアスケートのように。
「ああ。俺はすぐそこのアパートで一人暮らししてるんだよ」
「……一人暮らし?」
「そうだけど、どうかした?」
怜奈は動きを止めると、少し考えた様に顎に手を持っていく。
そして何か思いついたのか、口元を大きく横に広げていた。
あの顔。
なんであんなに楽しそうなんだろうか……。
嫌な予感は、きっと予感じゃ終わらない。
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