春 Ⅰ

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ぽふっと音がする、女も座ったんだろう。 「何の、用ですか?」 「……プリントを渡そうと、」 「お茶、出しますね」 人に尋ねといて何だ。 ドアがまた開いて、閉じた。 たったったっ……と階段を下りる音。僕は完全に感覚の世界に1人残された。 「……」 手探りに何か触ろうと手を動かす、まるで盲目の人になったようだ。 椅子を少しずつ回転させながら腕をまっすぐに伸ばし、何かに当たるようにする。 すると何か固い物が当たった、これは…机? 「机に乗ってるのは、……本か?」 ガチャッ ドアの開く音がして思わず探す行為を中断する。 「何、してたか当てましょうか?」 「……」 「手探りで周りに何があるか確かめてましたね、見つけたのは机程度でしょうが」 「……正解だよ、ごめんね。余りにも見えないから周りが気になったんだ」 「構いません」 こんなに焦ったの、いつぶりだろう。
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