春 Ⅰ

11/17
前へ
/33ページ
次へ
「お茶です、わかりますか?」 「……ごめんね、見えない」 「手、貸してください」 女は僕の手を取るとコップにそって触れさせ、掴ませた。 冷たいけど氷は入っていない、僕はそれを少しだけ口に含んだ。……普通の麦茶だ。 自分は今どこを向いているんだろうか、少なくとも女の方には向いていないと思う。なんとなく。 「あなた」 「なに?」 「プリント」 「……そうだったね」 そういえば鞄どこに置いたんだろう、椅子に座らされた時には持ってなかったから床に落としたか? 足を動かして鞄を探していると僕より先に女が見つけたようだ。 「プリント、どれですか? このファイルの中、ですか?」 勝手に開けるな。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加