春 Ⅰ

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「うん、ファイルの中に入ってる」 「これですね。 はい、鞄をどうぞ」 膝の上に重量感、それは言うまでもなく僕の鞄だった。 女が近寄ってくるような足音は聞こえなかったのに……、もしかして近くにいるのか?いやだとしたら声が近いはず。 この自分の感覚を麻痺させるような黒に溶け込んでから数十分が経ち、暗闇に目が慣れてきたと感じたその時に女はまた「あなた」と僕を呼んだ。 「どうしたの?」 「他に、何か用事は?」 「…………あ、先生がさ、学校に来なさいだってさ」 「そう」 「……」 こいつは行く気が無い、何を言っても無駄なんだろうなと思った。もう僕がここにいる理由は無い。 帰るよ、と言おうとしたらまた女の言葉に遮られた。 思わぬ一言で。 「……ハムスター、覚えてますよね?」
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