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これは恋愛ではない。
けれど、あたしは彼とえっちしてもいいくらいに、彼のことが好きだと思う。
あたしにとっては、すごくすごく素敵な人。
あたしの胸をドキドキさせる。
バレンタインはあたしから彼に予定を空けておいてくださいと言った。
でも、彼は毎日暇をしているわけでもない。
会いにはいくけど遅くなるから食事は済ませておいてと言われて、あたしはお母さんと料理を作る。
彼の家で習っているから、上手だってお母さんに誉められた。
日付が変わる1時間くらい前に、ようやく彼と会うことができた。
あたしは彼の電話で家を出て、家の前に停まった車に近づく。
真冬だ。
ずっと家の中にいたから、かなり寒く感じる。
彼は運転席側から助手席のドアを開けて、あたしを車の中に入れてくれる。
「遅くなりすぎましたね。すみません。かわりに明日はいただいたチョコレートを処分するのにつきあっていただきます」
「お疲れ様です。たくさんもらっちゃったんですか?」
あたしは手にした紙袋に視線を落として、渡していいものか悩む。
「社内は女性が多いだけですよ。個人的なお返しをするつもりもないのに、個人的にいただいてしまうんですよね。部署でまとめてくださいと去年言ったはずなのに」
彼は疲れたかのように息をつく。
今までお仕事だったのかなと思うと、さっさと渡して帰ったほうがよさそうだ。
「明日、あたし食べますけど、今日はおじ様に渡しておきます。あたしからのチョコレートとプレゼント」
あたしは手にした紙袋を彼に差し出して、彼は笑みをその顔にのせて受け取ってくれる。
「プレゼントはなんでしょう?」
「ネクタイとネクタイピンです。父の日みたいですよね」
あたしが言うと彼は笑って。
「ありがとうございます。お父上には何を渡されたのでしょう?」
「チョコだけです。あ。今年は輝くんにあげていません」
「……あなたは輝とも社長とも連絡をとってはいないのでしょうか?」
「はい。おじ様にとってもそのほうがいいんでしょ?」
「……輝と社長の婚約が決まりました。3月には船上で婚約披露パーティーがあります」
彼はそこで言葉を止めてあたしを見る。
「あなたとのこの関係も終わるときがきましたね」
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