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だが、その後の記憶がはっきりしない。何かあった気がする。誰かの悲鳴が脳裏にわずかに残っている。おそらく、事故か何か恐ろしいことが…。
礼奈は横たわっている台から降りるために上半身を起こそうとした。しかし、何かに引き戻される感覚がしてそれは叶わなかった。首が何かにつながれている。紐でも巻きついているのかと思ったが特に息苦しさは感じない。礼奈はそっと手を持ち上げて首筋に触れた。
まるで鉄か何かが触れたようなカチンという音がした。その衝撃に驚く。ギプスに覆われているのか、とも思ったが…何かがおかしい。聞こえた音は生身の人間の手が金属に触れた時に鳴る様なものではなかった。まるで、金属と金属が触れ合ったような硬く冷たい音だった。
『起動を確認しまシた』
突然頭上で声が響いた。視線を自分の前髪の更に上へ向けると、そこには一体の女性型アンドロイドが居た。医療タイプなのか、頭部にナースキャップを模したパーツを乗せている。実際のところこのパーツは医療に必要な膨大なデータ群を利用するための通信装置と保存メモリが一体となったものなのだとかいう話を聞いたことがある。
『接続を解除しまス』
更にアンドロイドが言う。同時にプシュウと空気の抜けるような音がして首が軽くなった。何らかの医療器具が外されたのかもしれない。ならばもう起き上がることも出来るはずだ。
礼奈は今度こそ、上半身を起き上がらせた。部屋の全体が目に入る。周囲には礼奈が横たわっているのと同じ様な金属製のベッドが無数に並んでおり、その周りを医療タイプのアンドロイドや器具運搬用のロボットが行き来している。ここは医務室だろうか。では自分は事故で怪我をしてしまったのだろうか。そう思いながらベッドを降りた。
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