変質

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 ふ、と顔を上げたところで奇妙なものが目に入った。礼奈が立ったちょうど真正面の位置に据えられた銀色の医療機器。それが何の役割を果たすものなのかは露ほども解らなかったが、そのときの彼女にとって重要なのはそんなことでは無かった。 「何よ…これ…?」  呆然と真っ白になった頭で辛うじて吐き出されたその言葉は彼女の意思によるものだったが、その声色は聞きなれた彼女自身のものとはかけ離れたものだった。氷の様に凍てついた、嫌に冷静な声音。自分自身の動揺とは裏腹に、それはどこまでも硬質だ。 「何なのよ…これ…!」  まるで悪夢を振り払うかの様にもう一度、先ほどよりも強い語調で呟く。ピカピカに磨かれた銀色の医療機器、その側面に反射して映るのは本来ならば礼奈の姿で無ければならないはず。しかし彼女の視界に入ったその姿は、脳裏に思い描いた自分自身とはまるで違ったものだった。  ガラスの様に虚ろな瞳は彼女が本来持っていた美しい青色とは全く違った色に怪しく輝き、銀色に光る肌は硬度を示す様に鈍く照り返している。本来の自分とは全く違う姿…なんて言う程度の違いではない。  礼奈の目の前、そこに映るのはまさしく一体のアンドロイドの姿であった。
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