機械の教室

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 人間達が地球を飛び出そうとしていた頃、その存在は生まれた。人間達が目指した宇宙空間は暗く冷たくあまりにも過酷な場所であり、彼らが活動するのには適さない。その先にまだ見ぬ星があるとしてもそこにたどり着くためにはあまりにも厳しい環境を乗り越えなければならない。――生身の人間に、それは難しい。彼らが新たな地を得るには、新たな労働者が必要だった。  宇宙空間という過酷な場で働くことが可能で、かつ人間と同じ様に思考し、自ら判断を行うもの。それは呼吸の出来ない宇宙空間において、生物と言う枠内の存在には実現不可能な要求だった。  そこで人間は、自らを模したその存在の開発に着手した。古くはコンピュータが現れ始めた頃から提唱され、長い時間研究されてきたもの。理想と妄想と現実と、あらゆる人間達の知恵と技術の結晶。  その存在の名は、『アンドロイド』。人間の姿をし、人間のように考えて人間のように動く鉄の塊。その開発が成功したとき、人類の宇宙進出が始まった。  現れ始めた頃のアンドロイドは鉄の肌をむき出しにした、ただの『人間の姿をした自ら考えるロボット』に過ぎなかった。それらは主に、宇宙空間や生命の存続が難しい環境での作業を行うことに使われた。  しかし技術の進歩と共に、人々の理想が更なるアンドロイドの進化を生んだ。感情を理解する回路を組み込んだ、対人型アンドロイド。人のように抑揚を付けて話をし、自ら考え言葉を選ぶ。人工皮膚と人口毛髪を装備したそれらは、一見して普通の人間と大差のない存在だ。決して安価とは言えない対人型アンドロイドではあったが、その技術の高さと見目の美しさは多くの人々を魅了した。  しかし生まれたばかりの彼らはあまりに無知であり、人間の赤ん坊とほとんど変わりがない。きちんとした教育を行い、対人訓練を行って経験を積まなければ理想のアンドロイドにはなり得ないのである。  そこで、宇宙において初めてのアンドロイド養成学校――通称「ANS」が生まれたのだった。
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