機械の教室

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「……」  ここで反論したところで、意味を成さない。それを知っている彼女は口を噤んだ。どう言おうともここでは誰も自分の言葉を信じてはくれない。なぜなら自分は今、紛れもなくこの学園――ANSに通うアンドロイドの一体に過ぎないのだから。 「それより、準備はもう良い訳?今日が初対面の日なんでしょう?」 「そりゃあもうバッチリだよ!今日の為に頑張って勉強してきたんだから!」 「今日の為…ねぇ…」  張り切る少女を前に、彼女の心はひたすら冷え切っていた。少女が待ち望んでいた「今日の日」は、アンドロイドが自らの「発注者」――「クライアント」と初対面する日だ。この学園に通う(彼女以外の)全てのアンドロイド達の誰もが心待ちにする日でもある。  アンドロイドは一体一体、オーダーメイドで造られる。アンドロイドというものはメンテナンスを行いながら何年、何十年、場合によっては何百年もの長い年月をクライアントと共に過ごす。クライアントにとってアンドロイドは自分の生活を担う一旦であり、アンドロイドにとってクライアントは自分の存在する理由そのものと言っても過言ではない。  そのため、全てのアンドロイドは初めて自分の主であるクライアントに対面することを許されるこの日を、生まれたときから待ち望んでいるのである。――一部の例外を除いては。 「人間なんて大したもんじゃないのにね…」 「え?何か言った?」 「別に」  呟いた言葉は幸いにも、対面する少女には届かなかったらしい。届いていたとしたらまたお説教大会が始まっていたかもしれない。何かと彼女の言動にお節介なまでに忠告や説教を行う少女。甲高い声で喚かれるのは煩いことこの上ない。  が、しかし、それは彼女にとって決してわずらわしいだけのものではなかったりする。少女に何事か言われることは、彼女自身にとっても必要なことでもあった。決して言われてばかりではない彼女は、少女と言い合いになる度に自らの存在を主張する。彼女はこの環境下にあっては時々忘れてしまいそうになるのだ。  ――自分が、上之宮礼奈と言う名の人間であるということを。
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