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つまり、心優は今、その選択を迫られているのだ。
「……なる場合と、ならない場合のその後を教えてもらえますか?」
正直なところ、心優にはこの仕事をする気が皆無だった。ただ、一つだけ気掛かりなことがある。
「友刃管理者(オーダーズ)になる場合、この契約書にサインしてもらって正式な手続きとする。その後のことは契約書を見てもらうと分かるよ」
なった後のことはそれほど気にならない。聞きたいのは、
「ならない場合、あたしから聞いた話の全てを他言しないことを条件に、普通の日常に戻ってもらう。その際、君のブレイドは回収させてもらうよ」
やはり、そうだった。
「回収とはつまり、さっきのメイドさんと同じように駆除するということですよね……」
「まあ、そういうことになるね」
そんなことは、できなかった。機械で作り出されたとは言え、もはやそれは一つの命なのだから。
「そんな仕事、ボクにはとてもできません。でも、ボクの中の、もう一つの心を捨てることもできません……」
「そう言うだろうと思ってたよ」
みらいはペンをくるくると回し、それを眺めながら小さく笑んだ。
「君は駆除の話を聞いて『酷い』って言ったよね。それは、フレンドを捨てる輩がいること、そのフレンドを駆除していること、両方に言った言葉なんでしょ?」
確かにその通りである。自らが興味本位で生み出したフレンドを、用が済んだ途端に捨てるなど、心優にはとても許せる行為ではない。それと同時に、だからと言って一度生を受けたフレンドを都合で刈り取るということもまた、許せなかった。
「だからあたしはこの仕事、君には向いてないと思う。優しすぎるから」
「それは、みらいさんも同じでしょう?」
不意に向けられたその言葉は、みらいの心を揺さぶった。彼女は何も答えない。答えられないから。
「ごめんねって、言ってました。あんな悲しそうな顔をして、ごめんねって。あなたがいつも笑顔なのは、むりやり作るしかない悲しみの笑顔を隠すためなんですね」
みらいとて、ずっと思ってきたことだった。全ては仕事だと割り切っているつもりでも、心の全てを隠すことはできない。彼女は心優の言葉を無視して話を戻す。
「……あたしのことはいい。君がどうするか、だよ」
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