1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ボクは……」
その場ですぐに答えを出すことができなかった。それはみらいも予想していたらしく、ペンを仕舞い、契約書を心優に差し出し、
「明日の深夜零時までに決めて。期限までに決められなかったら、契約不成立と見なし君のブレイドを処分する」
本来ならば、契約の話を聞いてから一週間、現役の仕事を数回見ながら友刃管理者(オーダーズ)になるかを決めるための猶予が与えられる。しかしみらいは、心優が決してこの仕事に就かないと踏んで期限を短くしたのだ。
この短い時間内に覚悟ができるなら、友刃管理者(オーダーズ)になることも不可能ではない、とみらいは思っていた。が、そんなことは有り得ないとも同時に思っていた。フレンドを駆除する道か、ブレイドを捨てる道か、それを心優が選べるなら仕事に向いていないなどとは思わない。
みらいが契約書を手渡そうとした、その時だった。心優とみらいの携帯電話が同時に鳴り出す。心優には健聖から、みらいにはハーツ社から、それぞれ電話がかかってきたのだ。
「もしもし」
一旦電話に出る二人。その内容を聞いた二人は、思わず復唱してしまった。
「レオンさんがいなくなった!?」
「野生フレンドの群!?」
「いえ、見てません。ボクもレオンさんを探します」
「奴らが群を成すなんて聞いたこと無いっす。野生化したら、集団行動の意識は消えるはずでしょ?」
レオンが出ていくところを他の執事が見ていたらしく、授業が終わり帰宅した健聖に報告したという。レオンと連絡も取れず、健聖は困っていた。
みらいも困惑していた。フレンドの位置は特別な信号によってハーツ社に把握されている。マスターから離れて野生化すると、その信号に変化が生じるため、ハーツ社はその位置を最寄りの友刃管理者(オーダーズ)にメールで教える。
ここで重要なのは、野生フレンドが必ず単独行動を取るということである。心の安定を失ったフレンドには集団行動ができないからだ。
「話は後にしよっ。あたしはでっかい仕事だ。心優はすぐに家へ戻って、外には絶対に出ちゃダメだからねっ!」
雪崩(なだれ)るように言い残すと、みらいは超特急で道を駆けていった。かなり重大な問題が起こっていることは心優も十分に察している。しかしながら、心優は戻る気もさらさら無かった。
「健ちゃんが危ない!」
最初のコメントを投稿しよう!