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携帯電話には出ない。レオンを探して走り回っている状態では、携帯電話が鳴っても気付けないのだ。いつ健聖が野生フレンドと遭遇してもおかしくない。どこにいるかは分からないが、心優はとにかく走り出していた。
みらいは早くも野生フレンドとぶつかっていた。しかも、
「三人か……」
大柄、小柄な男がそれぞれ一人、長身の女性が一人。既に敵意むき出しの眼光をみらいに飛ばしている。
みらいの近くにいるのはこの三人だけではない。視認はできないが、半径二、三百メートルに渡って十数人の野生フレンドが潜んでいるとの情報である。
「野生化が早いな。大仕事だっ。行くよ、シャロン!」
「はーい、ご主人!」
「健ちゃーん! 健ちゃーん!」
全力疾走を続けながら心優は健聖の名を叫んでいた。しかしそれが長く続けられるはずもなく、すぐに息が切れ始める。
「はぁ、はぁ……。健ちゃん……」
立ち止まり、膝に手を乗せ、肩で息をする心優。だが、そうしていたのも数秒で、顔を上げて再び走り出す。十字路を左折しようとした瞬間、心優は誰かにぶつかって尻餅をついた。
「す、すみません、急いでいたので……」
「心優!」
「あっ、健ちゃん!」
ぶつかったのは健聖だった。心優はほっと胸を撫で下ろし、立ち上がった。
「今、外は危ないみたいなんです。えっと、不審者が大量発生してて」
「それ、どんな状況だ!?」
「とにかく危ないですから、家に戻って下さい」
不審者が大量発生することは稀であろうから健聖の反応も当然である。そんなことはどうでもよく、心優は健聖を心配し、早く家に戻ってほしかったのだが、
「レオンを見つけるまでは帰らない! あいつは、俺のせいで出てったんだ!」
「ど、どういうことですか?」
「俺に忠実すぎるんだよ、あいつは。たまには文句言えよって言えば、勉強しろって文句言う。とにかく反抗しないんだ。だからつい……」
出ていけと言えば出ていくのか、と声を荒げてしまったという。するとレオンは、急に冷たい表情をして一礼した。それが今朝のことである。
健聖は拳を握り締め、心優の顔をまっすぐに見ながら心の内を吐き出した。
「俺はあいつと本当の友達になりたい。ただ主人と執事なんて関係だけで終わらせたくないんだ!」
「健ちゃん……」
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