1人が本棚に入れています
本棚に追加
「心優、見ろよ」
ホームルームが終わり、休み時間になるや健聖が心優のところへやってきた。その手に何冊かのマンガの単行本を持って。
「あっ、またそんなの学校に持ってきて。見つかったら没収されますよ」
「とか言って、お前だって見たいんだろ、新巻」
この二人、無類のマンガ好きである。特にファンタジーやバトルものが好きで、いつも二人で暇さえあれば語り合っている。一年次に二人が仲良くなるきっかけとなったのがマンガなのだ。
「やっぱりボクは剣を使う人がカッコイイと思います」
「銃とかイイじゃん」
その語り合いはもはや茶飯事のため周知である。また語ってるなぁ、という程度に見られるだけだ。休み時間に入るたび、二人の熱いトークは展開されたのだった。
その日の帰りのホームルームにて、担任が連絡する。
「最近、この辺りに不審者が出るらしいので、登下校時には充分気をつけるように。なるべく一人で帰らないこと」
その点に関して心優は大丈夫であった。いつも健聖と一緒に帰っているからである。
「なあ、今日ウチに寄ってけよ。合わせたい奴がいるんだ」
正門を越えた辺りで健聖が提案する。何度も遊びに行ったことのある心優は二つ返事で了承した。とその時、同じく正門から見慣れない一人の少女がそそくさと出ていくのを二人は見た。
「違う学校の人でしょうか」
「あんな制服見たこと無いぜ。まさか噂の不審者って……」
幸いかどうかは定かではないが、健聖の家は少女が向かった方向とは逆の方向であった。他愛のない(主にマンガの)話をしながら歩くこと十数分、長く白い壁の中央に、豪華な門が見えた。インターホンに健聖が帰宅を告げると、門は独りでに開いた。噴水やら銅像やらのある広い庭を突っ切り、家の扉を開ける。
「お帰りなさいませ、マスター」
出迎えたのは、現実の世界ではまず見ない真っ赤な短髪を有し、すらりとした長身の美形だった。マンガの世界から抜けて出てきたような執事である。
「いらっしゃいませ、ご友人の方ですね? 初めまして。私(わたくし)、マスターの執事をさせて頂いております、レオンと申します」
健聖の家によく来るのだから、心優は執事を見慣れている。しかし、このように派手でレオンなどという名を持った執事は見たことがなかったため、しばらく目をぱちぱちとさせていた。
最初のコメントを投稿しよう!