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「……あっ、初めまして、白刃 心優です」
「へへ、カッコイイだろ? 合わせたい奴ってのがこいつさ。俺専用の執事だ」
誇らしげに胸を張る健聖。その隣でレオンは微笑みを絶やさず立っている。とその時、心優の携帯電話が音を立てた。
「失礼。……あ、お母さんです。もしもし? はい、ええ、健ちゃんの家に遊びに。……そうですか、はい、分かりました」
残念そうな表情で電話を切った心優に、健聖が片方の眉を上げながら尋ねる。
「どうかしたか?」
「先生が言ってた不審者の話、あったじゃないですか。父兄の方々にも話がいってるんです。お母さんが買い物に行った時にそれらしい人を見て……」
「心配になったから早く帰ってこいと」
「はい。ですから今日は帰らないと」
と言って心優が別れの挨拶をしようとすると、レオンがずいと前に出た。
「お一人では危ない。お送りしましょう」
「大丈夫ですよ、すぐ近くですから」
実は心優、初対面の人と話をするのが苦手である。家に帰り着くまでの道のりで沈黙を作らず歩き通す自信は無い。それなら俺が送ればよい、と健聖が名乗りを上げるも、マスターにそんなことはさせられないとレオンが止めた。
結局どちらも送りはしないでよいと心優が言い張り、一人で帰ることになった。今日は健聖の家で新巻を読むのだとワクワクしていたのだが、渋々心優は健聖とレオンに手を振ってその場を後にしたのだった。
心優の家は閑静な住宅街の一角に位置しており、車一台分の幅しかない道路は人通りも少ない。このようなところで不審者と出会うのは非常に恐ろしいことである。とは言え、不審者などよく聞く話であり、実際に出会うことも滅多に無いだろうと思っていた。これまでもそうだったように。
それゆえ、角を曲がった瞬間に目に入った大男を見、硬直してしまったのも無理は無い。春の陽気の中では暑いであろう黒いコートに身を包み、ニット帽を目深に被っている。
「あっ……」
男の瞳がぎろりと心優に据えられても、声すらまともに出せなかった。突然のことに恐怖が体中を支配し、震えることしかできない。男はゆっくりと心優に近付き始めた。逃げなければ、助けを呼ばなければ、そう思ってはいるのに、体は言うことを聞かなかった。男の手が心優に伸びる、その時、
「『野生フレンド』発見。戦闘、開始しまっす!」
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