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一瞬間、心優には何が起こったのか理解できなかった。ただ、自分の背後から誰かが跳んできて、眼前の男の顔面にカンフー映画よろしく蹴りを食らわせた光景だけは目に入った。
その際、跳んできた誰かの懐から何かが地面に落ちて硬い音を立てた。心優はそれに気付いたが、落とし主は全く気付かない。
とにかく、クリーンヒットした蹴りは男を仰向けに倒すには充分な威力だった。着地したその者を見て初めて、心優は自分が助けられたのだと知る。
「君、そのまま動かないでねっ」
そう心優に言い付けたのは、信じられないことに心優と同い年くらいの少女だった。しかも先程、正門を足早に出ていった少女である。特徴的な制服なので覚えていたのだ。
男がむくりと起き上がり、少女に殴りかかる。少女は素早くかがんで躱し、足払いをかけた。片足を打たれてバランスを崩した男の腹部に、少女の強烈なストレートパンチがめり込む。男が腹を押さえながら悶えた瞬間、片足を軸にくるりと回転した少女はとどめの回し蹴りを側頭部に見舞った。
見事なまでに完全なノックアウト。
「大したことなかったねっ」
ぱんぱんと両手を払うと、少女は懐に手を突っ込んだ。が、どうやら目的の物が入っていないらしい。疑問符を頭に浮かべながら何度も懐を探している。
心優は、恐らくあれを探しているのだろうと、少女が今し方落とした物に目を向けた。握手を求めるような手の形をした奇妙な模型で、立てた音からして硬い物である。拾って渡そうと思い、心優がそれに手を触れた途端、
「わっ!?」
まばゆいスパークがほとばしり、心優と少女を驚かせた。少女は慌てて振り返り、目を見開いた。
「まさか君、それに触っちった!? 動かないでって言ったのに!」
「あ、あの、すみません、渡そうと思って……」
「ありゃりゃぁ、『バース機』が作動しちった。しかも今のスパーク、正常な作動じゃないっぽい……」
心優は胸の辺りに熱を感じた。何かが込み上げる。胸を突き上げるような感覚だが、痛みは無い。次の瞬間、それは現れた。
尋常でない光景。心優の胸から、純白の刃が突き出たのだ。刃、鍔(つば)、柄(つか)と順に胸から出てくる様は、心優でなくても衝撃を受けて当然である。完全に抜けきった日本刀を見、心優はひきつった笑みを見せた後、ブラックアウトした。
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