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「そうしたら僕は君を捨てよう。見捨てよう。」
「そうね、それがいいわ。」
「どうしようもなく役立たずで、どうしようもなく汚くて、どうしようもなく救いようのないものに成り下がったとしたら、」
「それはもう人間じゃないわね。ふふ」
「そうだね」
「そうよね」
「だから君はまだ捨てないよ」
「…………」
「君はまだ捨てるほどに非力な、人間と呼ぶにはあまりにも非力なものになりさがってはいない」
「わたし、腕がないわ」
「ないね」
「足もないわ」
「ないね」
「目も見えないわ」
「ないね」
「もうすぐ命もなくなるわ」
「そうだね」
「捨ててよ」
「やだよ」
「捨ててったら」
「やだったら」
「どうして!」
そして、彼女ははらはらと泣いた。焦点の合わない硝子玉は何を彼女の脳裏に写し取っているのだろう。彼女は僕の隣の壁をじいいっと睨み付け、はらはらと粒を溢した。
(でもきみには、心があるだろう)
(人間の条件は、十二分に満たしてるよ。)
「どうして!」
彼女はもう一度叫んだ。
ぼくはそれに答えるつもりはない。
(答えたら、)(きみ)
(心さえも、)(捨てるだろう)
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