5月

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 入学間もないひと月前、何時も休み時間一人で窓際の席から外を眺めている遥に声をかけたのは、華奈多からだった。 「――いい席だね、ここ。桜が良く見える」 「・・・うん」 突然の声に驚いた遥は一旦は華奈多と眼を合わせたが、言葉少なに返した後は、戸惑うように視線を机に逸らした。 先のリーディングの授業中、華奈多が廊下際の壁を枕にして教室の中を眺めていたら、同じ列の窓際の席で、今と同じように窓の外を眺める彼女が見えた。 机から取り出した座席表で名前を確かめる。 『公津先生はメガネっ娘って呼んでたけど――加良部遥・・・か』 遥が頬杖をつくと、少しルーズに切りそろえた長い前髪がさらりと流れた。 赤いフレームの眼鏡は、「私真面目なんだから」と主張しているようで可愛い。 たった15歳であんなにアンニュイな雰囲気が似合うなんて。 『何を見てるのかな・・・』 気になることは直ぐに首を突っ込みたがる性分の華奈多は、早速その後の休み時間遥に話しかけたのだ。 「私なんか廊下の壁際だから壁枕しかできないんだよ」 尚も立ち去ろうとしない華奈多に、観念したように遥が目を合わせてきた。 そうなると、今度はこっちが気恥ずかしくなるくらい真っ直ぐ見つめてくる。 『あ、このコやっぱり凄く真面目』 赤いフレーム越しに、切れ長の涼しい瞳は潤いで輝いていた。 ――真面目だし「強がってるみたいに見える」のかな? 『どうしよう・・・嫌われるかな・・・』 仲良くなりたい一心で、我慢を知らない華奈多は思ったことをそのまま口にしてしまった。 「加良部さん――これから、姐さまって呼んでいいですか」 遥はまた目を逸らしてしまった。 「だめ・・・です」 それから、休み時間も、放課後も、何かにつけて華奈多は遥の傍にいる。 遥は「姐さま」と呼ばれることに慣れた・・・というか無理矢理慣れさせられ、「玉造さん」から最近やっと「華奈多ちゃん」と呼ぶようになった。
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