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例年3月末には満開の桜も、今年は、この日まで散るのを待っていてくれた。
「先生!早く撮って!」
「寒い!」
新しい制服に袖を通したばかりの生徒達が、震えながら桜の木の下の雛壇に並んでいる。
若い小柄な女性担任は意に介さず、とデジカメの液晶画面を見ながら指示を出した。
「皆もっと隣同士寄って~。それから、最後列の両端、体半分しか入ってないよ」
その声にあわせて、会って間もない生徒達は体や顔を寄せ合うが、
遥は違和感を抱えたまま隣の子に腕を取られていた。
とりあえず笑顔を作ろうと唇を左右に広げてみる。
――ダメ。笑えてない。
返って涙が出てしまいそうだ。きっと可笑しな顔の写真が残ってしまうだろう。
遥はレンズを見返すことができずに、空を見上げた。
花曇りの4月の空。こちらも今にも泣き出しそうだ。
――代わりに泣いてくれればいいのに。
「そこのメガネっ娘!何処向いてるの!」
「すみません!」
飛ばしていた意識を慌ててレンズに戻す。
「撮るよ~」
暢気な担任の声の後、何度もフラッシュが光った。
その日の写真を見返すたび今でも、
周りの笑顔の中一人涙を堪えているような自分の顔を、遥は黒い油性マジックで塗り潰したくなる。
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