4月

8/10
前へ
/33ページ
次へ
「落ち着きました?」 「――うん。凄く楽になった。カタルシス到来」 「そろそろ帰ります」 「ええ?折角だから、お茶していこうよ」 杜は上着のポケットから小さな四角いものを取り出して見せた。 ふふっ、と嬉しそうに含み笑いすると、 「その名も「サクラティー」。メガネっ娘にご馳走しちゃう」 小さな紙箱に、手描きの桜の花びらのイラストのプリント。 「可愛いパッケージですね」 「うん。『えいこく屋紅茶店』ていう、愛知の輸入商社で作ってるブレンドなの。私も最初パッケージの可愛さで買っちゃったんだけど。これが中々・・・」 「お湯沸かします。――あのケトル借りて大丈夫でしょうか」 「いいでしょ。――多分。今部長誰だろう。今日放課後また来て見るね」 杜はケトルの沸騰音を音だけで見極めると、 慣れた手つきでガラスの丸ポットを温め、カップにお湯を移し、ポットへ茶葉を入れて、勢い良くケトルからお湯を注ぐ。 茶葉とともに、桜の花びらと桜葉がポットの中で吹雪のように舞いあがる。 すぐにティーコジーを被せ、砂時計をひっくり返した。 「凄い。お店の人みたいです。私家ではティバッグしか使ったことなくて」 素直な遥の賛辞に、 「う~ん。なんていうのかなあ。本当はお茶って、普段の生活で楽しむもののはずでしょ。だから紅茶飲むなら、是非是非紅茶は缶で買ってもらって、これくらい出来てほしいなあ・・・なんて思うわけデス」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加