1.the first seal 第一の封印

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表の階段を駆け上がる足音に、アンダーソンとクロスターは患者が来たかとソファから立ち上がる。 手荒くドアが押し開けられ、転げるように少年が待合室に入って来た。 「先生!助けてくれ!」 何事かと構えたのに、常連患者の登場で二人は途端にやる気を無くして、再びソファに沈むように座り込んだ。 「テッド。また御前生傷増やしたのか?」 テッドは東欧系移民の少年である。少年課でも名の知れているスリや窃盗の常習犯だが、毎回大した額は取らないので、数日留置所に入れられるだけですぐに釈放されては、性凝りもなく小さな罪を繰り返していた。 「大して入っちゃいないような薄い財布を擦ったらさあ、彼奴、仲間が居やがって、そいつがナイフを持ってたんだ!慌てて逃げ出して…」 「それで背中を斬り付けられたのか。自業自得だな。相手が銃じゃなかっただけ感謝しろ」 「悔しいから治療代踏んだくって来てやった。こいつの中から頼むよ」 手術台に上りながら、テッドは擦り切れたジーンズのポケットから財布を取り出した。それを取り上げておいて、 「本末転倒だな。――マイク、こいつの両腕、押さえててくれ」 「はいはい(yes siree!)」クロスターが俯伏せのテッドの両肩を動かないように押さえ付けた。 手術用の針と糸を用意して、アンダーソンが手術台のライトを付ける。 「先生!麻酔使ってくれよ!」 しかし医師は聞かなかった。下手に麻酔を用いると血液の凝固が遅れて血が止まらず、輸血を要する手術になってしまう。体への負担を考えての事だ。 「あ~。麻酔は金がかかるぞ。治療費の保険払えないなら仕方ないだろ。我慢出来ないなら、知り合いの病院に救急だって転送してやろうか」 「嫌だ!サツにバレるだろ」 「もう遅い、俺が警官だって忘れるなよ――見逃してやるから我慢しろ!」 この薮医者!痛ぇよ!という患者の叫び声も無視して、医者は手際良く斬傷の縫合手術を熟した。
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