永久の少女

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永久の少女

大きな背中が見える。暗い世界の中で、その背中をあたしは追っている。追い掛けて追い掛けて、あたしはその背中を必死に呼ぶ。 ──お兄ちゃん! 声を聞き届けたのか、その背中の持ち主はぐるりと振り返った。 薄く緑のかかった瞳はあたしと同じようにややつり上がり、茶色い髪はあたしより短い。あたしより少しだけ凛々しい顔をした彼は、抱き止めるように手を広げ、そうして駆け寄るあたしに手を伸ばす。 ぎりりとその冷たい手のひらがあたしの首に食い込んでいく。彼のあたしより太い首には、親指ぐらいの太さの赤い紐。ギリギリと食い込むその紐は、赤黒くてらてらと光を返し始める。知っている。あたしの臍の緒だ。 ギリギリ、ギリギリ。 お兄ちゃんの手があたしに食い込む。喉仏を押し込まれて吐き気がするのに、えずくことも出来ないくらいに押さえ付けられる。 お兄ちゃんは言う。あたしの声で言う。お前ばかり。お前ばかり、と。 だからあたしは声にならない声をあげて必死に許しを乞う。ごめんなさい。ごめんなさい。お兄ちゃんごめんなさいと。 物心つく前から見てきた悪夢は、あたしがあたしの兄の存在と末路を知ってから、このような姿をとるようになった。小学生のあたし。中学生のあたし。高校、大学。お兄ちゃんは成長する。あたしと同じように、あたしの中で成長する。双子らしい、よく似た顔であたしを見て、あたしの首をその手で絞める。 繰り返し繰り返し見てきた夢。あたしが死ぬまで許されない、双子の兄を殺した罪。 胎の中で手を取り合っていた存在を、あたしはあたしの手で絞め殺したのだ。
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