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 もう時計の針は0時をとっくに過ぎている。  電気の消えた真っ暗なベッドの上で、セナの大きな瞳だけがギョロリと闇に浮かんでいるようだ。  明日は6時半には駅に集合しなければならないのに…、そう思いながらも、セナは眠れずにいた。  とうとう明日は『アマチュアDEEP』の大会日。会場は愛知県の名古屋である。  関東に居を構える『ApeFactory』の面々としては、当日のコンディションや影響を考えれば、前日に向こうのホテル等に前乗りしておきたいところだが、アマチュアな上に親の庇護の元で生活するセナやハルチカ、ダイスケにとってそれだけの金銭的余裕は無かった。  その為、明日は朝早い電車と新幹線を乗り継いで会場のある名古屋まで行く算段が取られていたのだった。  そんな早朝起床の為にもセナとしては早いところ眠りにつきたかったが、中々神経の高ぶりと過敏さで眠りにつけずにいた。  「―はぁ…」  思わず溜め息を吐く。  その溜め息は、無音で真っ暗な部屋の中で、唯一大きく主張していた。  (―緊張…なのかな?)  セナは自問する。  だが、その答えは既に自分自身分かっている。  枕元に置いておいた携帯電話を手に取りディスプレイを開いた。  光るセナの手元、その携帯の待ち受け画面には未だ変わらないあの画像が写っていた。  ―初老と言って過言でない肌の色黒い男性が前列中央の中心に正座で座し、その両隣に屈強そうな男達が5名ずつ連なり正座で座す。そして同じように横に10名程の列があと2列その後方に並び正面を向いている。2列目は中腰に立ち、3列目は立って腕を組んでいる。そして、その凡そ30名程度の人間全てが柔術着を着ている。  携帯の待ち受け画面になったその大勢の画像…その一人一人は豆粒のようだ。しかし、セナにはどれが誰だかよく分かっている……それはセナがこっちに進学の為に上京して来る前に通っていた『BANZAI JIU-JITSU』の仲間と撮った集合写真だ。  画像に写る多くが直系のブラジル人や日系二世や三世の日系ブラジル人で、その集合写真の中では、セナを含めて数人しか日本人はいなかった。それでもあの道場では日本人、日系人、ブラジル人の壁など微塵も感じさせない雰囲気があった。  セナにとってあの頃の思い出は大切で貴重なものの筈なのに、それが今は明日に試合を控える彼女の睡眠を妨げる枷となっていたのだった。
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