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「いいから出せってんだよ」
「ふぇ……こ、こう?」
輝の発する声の調子は変わらぬままだが、何やら怒られていると思っているのか、些か縮こまっている様子が見て取れる光はおずおずと右手を輝に差し出した。
すらりと伸びてきた光の右手をちらりと見つめる輝は、唐突に自分の左手で光の右手をしっかりと握り締めた。
そして、何事もなかったかのように再び前へと向き直りながら歩き始める輝。
もちろん、輝に握られた光の右手は外されることはなく。
「え? え?」
始め引っ張られるようにして光も歩き始めたのだが、その目線は自分の右手と輝の後ろ姿を何度も行き来しながら呆然とした表情が光の顔に表れる。
「なんで?」と言いたげな光の心情を悟ったのか否か、輝はさぞ当たり前のことだと言わんばかりに呟いた。
「ビビりまくってるやつの言葉なんか信じられるかよ。一度も来たことがねぇんなら黙って俺に付いてこい。別にてめぇがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、とばっちり食うのだけは御免だからな」
「ふぇ……えと、えぅ……」
ほんのひとかけらさえも信用されていないようなことを断言されてしまったのにも関わらず、何故だか光は怒りとは全く別の妙な気持ちに駆られていた。
同期生でもあり、魔法学校では数多くいる生徒の中でも才ある者としてちょっとした有名人となっている夏ノ宮輝。
昨日までは全く以って面識という面識はなかったけれども、それでもちょっとした有名人になるほどの人物から積極的なリードをされているせいか、こんなに一方的なことを言われていると言うのに全く嫌な思いがしないのである。
祭壇の頂きへと登り着くまでのわずかな時間の中、どこか心の奥底がむずむずしてしまうのを感じてしまう光なのだった。
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