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【シェルノス郊外:北方草原】
わたがしのような雲がぽつりぽつりと浮かぶのどかな空の下、青々しい広大な草原を一両の全自動電車が駆け抜けていた。
一直線に一定の速度で線路を進んで行く電車の目的地は未だ見えてこず、振り返った後ろの景色には少し遠くの方に都市がぼやけて見える。
「……ふぁ~」
のどかな雰囲気漂う草原を駆け抜ける電車の中で、ぽつりと眠たそうな声が聞こえてきた。
目尻に溜まったわずかな涙を気にも留めず、窓から見渡せる広大な草原を頬杖を突きながらぼんやりと見つめている少年がいた。
彼の名前は夏ノ宮 輝(なつのみや てる)
『シェルノス』に存在する唯一の魔法教育機関、“シェルノス魔法専門学校”に在学する生徒である。
淡い茶髪に軽く逆立ちを見せるショートの髪型、黒円の瞳を持つ輝は幾分か大人らしい雰囲気を醸し出しながら静かにそこに鎮座していた。
「…………」
そうした様子を露にする輝から少し離れた反対側の座席にもう一人、別の誰かがちょこんと座っていた。
見るからに弱々しさが感じられ、体型も小さめで童顔、それに加えて中性的な顔つきはずっと見つめ続けても性別は分かりそうにないものである。
輝と比べると幾分か子供らしい雰囲気を醸し出しているこの子の名前は、柊木 光(ひいらぎ ひかる)
輝同様に“シェルノス魔法専門学校”に在学する生徒の一人であり、輝の同期生でもある。
全体的に落ち着いたショートの黒髪を持ち、赤みを帯びた瞳を時折輝に向けてはすぐに俯く光。
見るからに正反対に見えるこの二人が何故たった二人きりで電車に乗ってどこかへと向かっているかというと、その理由は一日前に遡る――
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