9人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
疲労で朦朧とする意識を、けたたましく鳴るアラームが無理矢理に覚醒させた。
目標から放たれた追尾式粒子弾が高速で接近。
パネルに表示される軌道、着弾、被害予測を見るまでもなく、それが私の乗る機体に多大なダメージを与えるということは容易に想像できた。
「うぅ……」
――回避行動をとらなきゃ
呻くような声を出しながら、左右それぞれの手に握っているレバーを目一杯引き、フットペダルを足がつりそうになる程力を込めて踏み込んだ。
円を描くようにカーブしつつ機体の向きを半身に制御、後方に向けて緊急回避。急激な加速によるGで、私はまた意識を失いそうになる。
微かな衝撃。幸い、機体の外装を軽く掠った程度で今の攻撃を躱わす事ができた。
緩やかにスピードを下げ、機体を安定させる。
大きく息を吐いた。制服も髪も汗でべっとりと張り付き気持ちが悪い。
荒い呼吸を少しでも落ち着けようと深呼吸した。瞬間。
「馬鹿! 後ろですわよ!」
耳元から怒号が聞こえたのとアラームが鳴ったのはほぼ同時で。
――回避、間に合わない……!
そう思った瞬間に被弾。
後ろから突き上げるような衝撃が襲ってきた。「ぐぅ」
ガクガクとコクピットを揺らす衝撃を耐え。すぐに被害状況を確認するため、パネルへと視線を移す。
――背部スラスター二基稼働率0%――大破
――外装第三装甲板まで破損
――エーテル機関出力39%低下――エーテル伝動率には問題無し
「どうしよう……」
一瞬、ほんの一瞬だけど、私は思考を停止させてしまった。プチパニック。
その時の‘どうしよう’は可能性の模索や状況の整理、判断の為の物じゃなくてただ単に、何も分からない、考える事を放棄した逃げの言葉。後でそう言われた。反省、してます。
「駄目だよ! エーテル感応値を下げちゃ!」
通信回線を通して聞こえた先程とは違う声での叫び。
ハッとした時には、目前に目標。虫を連想させるフォルムをした敵が。前足を振りかぶっていた。ギョロリとした、赤い目玉のような部分と目が合う。
フォトンが凝縮されたそれは、私が乗る機体を真っ二つに切り裂く筈だ。いとも、簡単に。
足が振り下ろされた。
私は目を閉じた
それで
終わり。
最初のコメントを投稿しよう!