9人が本棚に入れています
本棚に追加
――夢を見た。そう、これは夢だ。
私は、カゴの中にいる。私は手足をジタバタさせる事しかできない。後は泣く事だけ。
鳴り響くアラーム。五月蝿い。だからまた泣いた。
泣いて、泣いて、これでもかと泣いていると、不意に、私の右手に何かが触れた。
――柔らかく、温かい手だ。
優しい甘い香り。そうだ、これは、お母さんだ。私の“小さな手を”を優しく握る。
「――る。泣かないで」
安心するなぁ。お母さんの手の温もり。
今度は左手に別の何かが触れた。
――大きくて少しごつごつしてるけど、やはり温かい手だ。
少し渋い、私の嫌いなタバコの匂いがするけど。これはお父さんだ。私の手を、おっかなびっくり握る。
「――る。お前だけは助けるからな」
――助ける?
よく解らないけど。お父さんの手も安心する。
私は、笑う。嬉しいから。小さな私の行動に理由は無い。ただその時湧き上がった感情をすぐに表に出すだけ。
「ねえこの子には酷かしら―――なんて」
お母さんがお父さんに喋りかける。二人の顔は靄がかかったようで、口元しか見えない。
「そうだな。酷い親かもしれない。だが――――なければ全てが無駄になってしまう」
お父さんがお母さんに喋りかける。私はまた笑い。その様子を見た二人が微笑んだ。
「さあ、行こうね――る」
お母さんが私を抱き抱え。立ち上げる。
爆発音。五月蝿くてまた泣きそうだったが、お母さんに抱かれていたので泣かなかった。
そして私は、カプセルのような物に入れられた。透明なフィルター越しに二人の顔が見える。私は急に不安になり大声で泣き出した。
「――る」
お父さんの声が微かに聞こえ。
「お前が、もしもまた宇宙(ここ)に来る事があるのならば」
少しの間をおき。
“お前が見つけるんだ”
その言葉をお父さんが紡いだ瞬間。私はカプセルごと漆黒の闇へと放たれた。
二人がいた場所が遠くなる。
私は見た。徐々に遠ざかるなか、艦を覆い尽くすほどに群がっていたのは。
“赤くギョロリとした眼を持つ虫”
だった。
最初のコメントを投稿しよう!