ラスト･ゴースト

僕が死んだ日

　大方の人間は、ぼくを含めて動くことができなかった。誰もが苦しみ、言葉にならない叫びを上げている。腐ったマヨネーズを一千倍ひどくしたような悪臭がした。車両の床は混ざり合った吐しゃ物で極色彩に染まっている。
　苦悶の表情で床を掻き毟り、指という指が真っ赤に染まった男がいる。唇を痙攣させ、泡を吹きながらワケの分からないことを大声で叫んでいる女がいた。

　脳髄が痺れるような感覚がする。キンキンと今までに無い程の耳鳴りがして、目は既に涙とか色々なもので見えなかった。ぼくは床に座り込み、だらしなく涎を垂れ流している。
　なんでこんなことに。畜生。
　この場から逃げなければならないと分かってはいるが、体の中には少しの力も残されてはいない。ひどく意識を保っておくことが困難だった。

　その日カルト教団によって地下鉄の車両内に撒かれた毒物は、数百人の命を奪った。