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何か不吉なものから逃げるように、人々は帰路を急いでいる。空を低く覆っている黒雲からは、今にも雨が降り出しそうだった。
気分を憂鬱にさせるような天気。ここ数日、誰もが感じている不吉な気配は、天井知らずの勢いで重みを増していった。
曽根川ひかるのゴーストは、誰もが家に引きこもり、数日前とは打って変わって人気のない街の中心部に一人佇んでいた。
時刻にすれば夜の十二時。平時であればそれなりの賑わいを見せている町の中心部も、今では出歩く者など全くといっていいほどいない。
まぁ……それは自分にとって都合がいいのかも知れないけれど。
言って道端に座り込むひかる。人に安心感を与えるような、ひどく柔らかい印象の少年。
彼は数日前まではどこにでもいるような高校生だった。そして元の生活に戻ることは二度と有り得なかった。
何故なら、彼は既に死んでいるから。
数日前に起こった地下鉄でのテロ事件。それによってひかるは命を落としたはずだった。
「そうだよ……ぼくは死んだハズなんだ」
自分が死んだことにひかるは何の疑問も抱いてはいなかった。
そりゃあ、まだやりたい事もあるし、こんな歳で突然殺されるなんて納得がいくわけがない。出来ることなら犯人を殺し返してやりたい。だけど一寸先に何があるか分からないのが世の中だろ?
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