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何かを作っているのは確かだろうが、この時点ではそれが何かはわからない。
フレイアが自身の記憶の中で似たようなものを模索した結果、一つ思い付いたように手を打った。
「ああ、吹き矢か。私も昔戯れに作ったことがあったが、あの時は仕込んだ毒が悪かったのか、危うくエルゼを亡き者に―――」
「全然違うよ!これはそういうのじゃなくて、ちょっと笛を作ろうと思ってただけなの!」
あまり公然と口にすべきでないことを、しかも当被害者が近くにいるというのにも関わらず平然とぶっちゃけるフレイアに、マルクは手にした棒切れで頭に軽く一撃を食らわせた。
「笛というと……あれか。口にくわえて指で穴を巧みに弄り倒し、七色の音を上げさせて旋律を奏でるという……」
「ちょっと違うような気がするけど……まぁいいや。部屋で読書するだけ、ってのもつまらないからね。久しぶりにやってみようと思って」
「ふぅん……演奏の腕前の程はわからないけど、作るのは苦手みたいね」
鍋を抱えてやってきたエルゼの言葉に、マルクはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
正直なところ、彼はどちらかと言えば一般的に不器用と呼ばれる部類に入る。その証拠に、ナイフを扱う手元はかなり危なっかしく、作りかけとはいえ棒切れの方も削り方が荒く全体的に歪んでいた。
薬の調合はお手の物だが、こうした技術力が必要となるものはどうにもならないものである。
「うーん……やっぱり、作り直そうかな。自分で作れば愛着も湧くと思ったんだけど……」
「こ、こらエルゼ!なんということを言うのだ!マルクの苦労を水の泡にするつもりか!」
「ただの親切心よ。出来ても、音が出なきゃ意味が無いじゃない」
フレイアは庇ってくれるのだが、まったくもって、その通りである。苦笑をそのままに、マルクはテーブルにナイフと棒切れを置いた。
そういえば、あの人はこういった事に関しては器用であったことを思い出す。もはや久しく顔も見ていない一人の肉親を思い浮かべて、マルクは小さな溜め息をついた。
「何にせよ、まずは食事にしましょう。せっかく作った料理が温かい内に、ね」
「うん、そうしようか。フレイアも、早く座りなよ」
「ぬぅ……私が代わりに作ってやれればよいのだがな……」
残念ながら、フレイアもこのような細かい作業はマルクと同様に苦手であった。
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