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「哲也、早く起きなさい! 遅刻するでしょうが」
毎朝恒例の不快なキンキン声が思い切り響いた。今朝も母親がぼくを起こしにやってきた。やさしく起こしてくれる母親がほしい。
「今起きようと思ってたんだよ」
「嘘つき。さっきまでガーガー寝てた癖に」
ぼくは、適当にパンと牛乳を口に突っ込んで、胃に押し込んだ。つけっ放しの朝のニュースでは、今日もまたあの話題だった。
ニュースの注目の話題は、喋る動物がいるとか…。そして、いつも様々な動物に変わって、人探しをしているらしい。
何故こんな馬鹿みたいな話が話題になっているかというと、取材中に動物がテレビカメラに向かって、喋ったからだった。
ぼくには興味がなかった。クラスメイトたちは、いつも話のネタにしていたけれど、適当に相槌していた。
どうせ間違えて流れついた動物たちみたいに、いなくなる。最初は残念がるけれど、すぐに忘れてしまう。みんな勝手だ。
「行ってきます」
玄関を出るとうさ耳をつけた童顔の人がいた。身長で見ると、多分ぼくと同じの学年だろうか。ぎょっとしたが、家の前にこの人がいるということは、何か用があることか。
「うちに何かご用ですか?」
勇気を出して、うさ耳に話しかけた。
「えっ!?」
うさ耳は、飛び上がって驚いた。何だか嫌な予感がした。
「し、失礼します」
さっさと謝って、学校へ向かおう。でも、うさ耳がぼくの前に立ち塞がる。
「何ですか? 急いでるんで、通してください」
「やっと見付けた見付けた!」
うさ耳は、ぼくの手を握って、パッと明るい笑顔に包まれた。何を言っているのか、わからなかった。
「え? 何を見付けたの?」
「見付けたの、君を! ちゃんと見えるでしょう? わたしの姿が」
喜んでうさ耳が問い掛けてきたので、思わず頷いた。何だ、見えるって。
「よし、君だ。データと顔も名前も一致してるや」
見たこともない不思議な電子手帳を取り出して、ぼくの生年月日などの情報を読み上げた。
何がどうなっているのか、さっぱりわからなかった。ぼくはどうかしているのかなあ。
「よし! じゃあ、行こうか」
うさ耳はうさ耳を外すと、ぼくの手を引っ張った。もしかして、同じ学校の人か。でも、さっきの名前などの確認は何だろう。
「行くって、どこへ?」
「え? どこって、もちろんラストガーデン!」
明るい笑顔で返されると、また手を引っ張り出した。
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