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ラストガーデン――? 全く聞き覚えがない。でも、何故ぼくがそんなところに行かなくてはいけないのか。その前に、学校へ行く途中なのに。
「行けないです、ぼくは学校行くので。それじゃ」
相手にしている時間はない、早く学校に行かないと遅刻する。遅刻したら、生徒指導がうるさいのだ。
「大丈夫! ラストガーデンにも学校はあるし、君はそこの学校に行くの」
元うさ耳は得意気に言って、ぼくの後ろをついてきた。
「行きません!」
これ以上、関わりたくなくてはっきり言った。元うさ耳は、ぼくの態度にショックだったのか、肩を落として涙目になっていた。
「…将来の夢を叶えられるのに。それで迎えに来たのに」
さっきまでの元気な姿が嘘のように、真っ暗な表情に変わった。ぼくの将来の夢を叶える? 何だそれ。
「いや、ぼくは将来の夢なんて特にないし」
思い当たらないので、学校へ向かう速度は進んだ。それでも、元うさ耳は後をついてくる。周りにいる人たちはチラチラとこちらを見ている。
「今は忘れてるだけ。君は、将来の夢を小さい頃に絵に描いたでしょ?」
何を言っているのだ…と思っていたが、急に頭の中に幼稚園の時のぼくが出てきた。何かの絵を描いていた。あれは確か魔法使いの絵…。
「やっと思い出した? これで信用してもらえるね!」
表情がまた明るくなり、頭がぼうっとしているぼくの手を掴む。そして、元うさ耳は知らない言葉を呟いた。眩しい光が差し込み、思わず目を閉じた。
目を開けると、何か違和感がした。そして、孔雀みたいな動物が優雅に空を飛んでいた。見とれてしまったが、ありえない。ここがラストガーデン…?
「そう、ラストガーデン! わたしはうさ耳じゃなくて、曽根川ひかる!」
もう連れてこられたみたいだ、信じたくはないが。ひかるは、うれしそうにピースしていた。今時ピースはない。見ていて恥ずかしくなり、見なかったことにした。
「ぼくはどうしたらいいの」
辺りを見渡した。見たことがない物や人ばかりだった。
「心配しなくても大丈夫だよ。何もかも上手くいくから」
不安を感じているぼくを励まそうとしているようで、ひかるは自分自身にも言い聞かせている感じがした。
このラストガーデンは、ぼくの幼き日の夢を叶える場所だ。これから何があるのか。早く家に帰りたい…。初めてのホームシックだった。
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